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現代アートに多くの影響を与えた「便器」とは?

現代アートに多くの影響を与えた「便器」とは?

マルセル・デュシャンという芸術家の『泉』という作品をご存知ですか。
既製品の男性用小便器に「R.Mutt 1917」と署名が入っただけのこの作品は、アートの世界に大きな波紋を呼びました。

世界で一番有名な便器と言っても過言ではありません。
今回は、現代芸術に多大な影響を与えた芸術家、マルセル・デュシャンについてお話します。

マルセル・デュシャンとは

デュシャンはフランス生まれの芸術家で、彼の作品と思想は現代までの美術に多くの影響を及ぼし、「現代アートの父」とも呼ばれています。

美術家として活動していた2人の兄の影響で幼いころから絵を描き始めたデュシャンは、印象派やフォーヴィスム、未来派などのさまざまな芸術運動に影響を受けた作風の絵画作品をいくつか発表しています。

しかし、1912年に発表した『階段を下りる裸体 No.2』という油彩作品が、当時流行していたキュビスムと呼ばれる芸術手法の研究会メンバーからの反発を買ったことで絵画に興味を失い、それ以降ほとんど筆をとることはなくなりました。

絵画を捨てたデュシャンは1915年にニューヨークにアトリエを移し、レディ・メイドと呼ばれる新たな表現手法による作品を発表するようになります。

既製品を使った作品「レディ・メイド」

デュシャンは新たな表現の手法として、既製の工業製品を使った「レディ・メイド」と呼ばれる作品を制作しました。
始めに制作したのは、自転車の車輪を木製の椅子にさかさまに取り付けた『自転車の車輪』という作品です。

その翌年には、『瓶乾燥器』という、買ってきた瓶乾燥器に署名と短い文を描きこんだだけの作品を発表しました。
この一連の「レディ・メイド」作品の中で最も有名なものが便器を使った作品、『泉』です。

デュシャンが便器を通して投げかけた疑問とは?

1917年、ニューヨーク・アンデパンダン展の実行委員長を務めていたデュシャンは、この展覧会に「リチャード・マット」という架空の名前で『泉』を出品しました。

アンデパンダン展とは、パリで開催されている無審査・無褒章・自由出品の美術展を模して行われる展覧会です。
しかし、既製の男性用小便器に「R.Mutt 1917」と署名がされただけのこの作品は、「出品者本人が作った便器ではない」などの理由から展示されることはありませんでした。

この事実について、デュシャンは展覧会側の対応を非難する文を発表します。
その内容は、「重要なのはマット氏が自らの手で『泉』を作ったかどうかではなく、彼がそれを選択し、名付けたことである。
その行為によって便器の日用品としての機能は失われ、その物体に対する新たな思考が創造された」というものでした。

つまり、「ただの小便器」が、マット氏によって選ばれ、『泉』というタイトルを得たことで、「ただの用を足すための小便器」ではなくなり、それを見た人にさまざまな思考を促す元になったでしょう、と言っているのです。

デュシャンが便器を通して投げかけた疑問とは?

デュシャンは、小便器に署名を入れたものを芸術作品として発表することで、「芸術家の眼(美的感覚)と腕(絵を描く技術)に依存する、一点限りの美的価値があるもの」というそれまでの芸術の在り方を否定し、「鑑賞者に思考を促すもの」としての芸術のあり方を提示して見せたのです。
芸術の存在意義を問い、新たなあり方を提示したデュシャンの思想は、現代の芸術作品にも脈々と受け継がれています。